無邪気に恋人の話をする彼の目が嫌いだった。
「同棲してた恋人の話なんてしないで」

彼は潤んだ瞳でしっかりと私を捉えて言った。

「なんでよ。そんな時もあったなぁって。だって私たちが出会ったのだって、その人と別れて私が自暴自棄になってた頃だったし。」

「聞きたくない」
彼は誤魔化すように小さく呟いて、煙草に火をつけた。


私たちは恋人でもなんでもない。

私は2年同棲した恋人と別れたばかりで寂しかったし、彼は上京してきて友達も少ないし、同じく恋人と別れたばかりだった。
2人でいるにはちょうどいい関係だ。


私は元恋人を忘れられずにいた。

「私たちが付き合ったら上手くいくかな?」

私は彼の気持ちに気づいているのに、デリカシーもなくそんな質問をよくしていた。

そうすると、彼はいつだって子犬みたいな目で私を見つめて未来の話をする。

「おばあちゃんになっても可愛いんだろうな」

それは愛情に満ちていて、私の心を簡単に満たした。

この日々に終わりはないと思っていた。
彼は無条件に私を愛し続けてくれるのだと。


いつからか、私たちは以前のように会うことはなくなった。

「ごめん、仕事が忙しくて」
気がつくともう3ヶ月も彼に会っていない。

断られるのが怖くて彼に連絡をしなくなった頃には、私は彼が好きなことに気がついていたし、恋人になりたいと思ってしまっていた。


「今から飲み行こうよ」
彼からの誘いは突然で、胸が高鳴ったのを覚えている。

汚い大衆居酒屋に、少し髪の伸びた彼。

「俺、恋人ができた。すごく俺のこと好きでいてくれて、それが嬉しくてさ。」

会わなかった期間の話をしようなんて言って、彼はそう続けた。

無邪気に恋人の話をする彼の目は、あの時と一緒だった。私が彼を傷つける代わりに、自分を満たしていたあの時と。

話に出てくる恋人が私は憎く感じた。

貼り付けたような笑顔で彼の話を聞き続ける。

やめてよ。

そんな話聞きたくない。

私が恋人だった人の話をしたとき、あなたもこんな気持ちだった?

ごめん。謝るから。

もうそんな目で私じゃない誰かの話なんてしないで。



溢れる気持ちも、涙も、堪えるために彼に見えないようにスカートを強く握りしめた。

終電だからと帰る彼を駅まで見送り、別れ際に小さく手を振った。

「彼女と仲良くね。」

振り返り、笑顔を見せる彼は完璧な別れのシーンを私の記憶に残した。

上手くいかなきゃいいのに。
また寂しくなって私のところに戻ってくればいい。

そんな最低な事ばかり考えていた2年間。


彼は結婚をするらしい。

見たこともない私の大嫌いなあの子と。
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