恋と呼ぶには利己的すぎた
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
クラブで知り合った年上の男とセフレになったことがある。よくあるワンナイト話と違うのは、わたしは元々彼のことを知っていたということだ。


彼はわたしが行った実習先の研修医だった。
綺麗な肌とパーツの整った顔立ち。今流行りの塩顔ってやつだ。細身の彼は白衣がよく似合っていて、それに加え学生にも優しく丁寧に教えてくれる。

わたしたち実習生の話題は彼の話で持ち切りだった。例外なくわたしも先生に憧れていたし、何とか顔見知りになりたいとツテをたどったこともある。
私の学校は学生と職員が交流を持つことを禁じているらしく、それは叶わなかったけれども。

だから、深夜2時のクラブで彼に声を掛けられた時はとんでもなく動揺した。

「すごい可愛い子がいるなと思ってずっと見てた」

酒の回ったとろんとした目で笑われて顔が火照るのがわかった。騒がしいフロアは話すのも一苦労で、彼はわたしの肩を抱いて耳元で話し掛けてくる。

冷や汗をかくのも束の間、これはチャンスだと思った。このまま彼を知らないふりをしていれば、あわよくば。据え膳食わぬはなんとやら。どうせワンナイトで終わる関係だ。
ふう、と深呼吸してわたしは腹を括った。


そこからはよく覚えていない。
テキーラとロングランドアイスティーを煽って、気づけば2人で道玄坂に向かうタクシーに乗っていた。
わたしはすこし酒臭いキスで頭をとろかしながら、この音運転手さんに聞こえてるだろうなぁなんてぼんやり考えていた。

クラブのロッカーの鍵は、私の腕に巻きついたままだ。


先生とのセックスは大して気持ちいいものではなかったけど、それを上回る優越感がそこにはあった。

みんなの憧れのあの先生を今、わたしは独占している。
普段診療している細くて骨ばった指でわたしの身体を愛撫して、何度でもキスを落として、「かわいい」と笑ってくれる。
キスする時に遠慮がちに舌を入れてくることも、「イキたい」と切なそうに呟く掠れた声も知っている女なんてそうそういない。

行為中に何度声を殺して笑ったかわからない。
それくらい幸せでたまらなかったのだ。
自分へのコンプレックスが、彼と寝たことですこし晴れたような気すらした。

「夏休みのいい思い出になったなぁ」
そう呟くと先生はすこし面倒臭そうにふ、と微笑んだ。


彼と再会したのは翌週のことだった。
大学の先輩に飲みに誘われて店に行くと、そこには件の先生がいた。

「この前は本当にごめん、君がうちの実習生だって知らなくて」

開口一番そう言って頭を下げられる。
彼はわたしを飲みに誘った先輩の知り合いだったらしく、この先輩のSNSから偶然わたしを発見し慌ててこの飲み会をセッティングしてもらったそうだ。

「このことバレたら俺クビになっちゃうから、早く謝らなきゃって思って」

そう呟いた先生の顔はどこか青白かった。
学生に手を出した研修医が解雇された前例があったらしく、ここ数日は食事も喉を通らなかったらしい。

わたしは彼の弱みを握ってしまったのだ。
先輩がトイレに立ったのを見て、わたしはふと先生に提案をした。

「誰にも言わないので、これからも会ってくれますか?」

彼は目を見開きながらも「わかった」と微笑んだ。
わたしは彼と繋がることで、自分を特別な女だと思いたかったのだ。


そこから先生は律儀に私のご機嫌取りに必死になってくれた。
彼の勤め先の病院での実習はまだ続いていたので、そこで会うことも結構あった。

友達が周りにいる中でわたしにだけ声をかけてくれるのが嬉しかった。飲みに行けば浴びるように酒を飲ませてくれたし、愛されてると見紛うくらいに優しく抱いてくれた。実習後にこっそりエレベーターホールの隅で待ち合わせして、そこでキスをしたこともあった。

そうやってなんの取り柄もないわたしを特別扱いしてくれる先生に、わたしはどんどんハマっていったのだ。


先生に長年付き合っている彼女がいることは知っていた。
けど、わたしは彼女の存在なんて気にも留めていなかった。彼女が強引な手で先生と付き合ったことは噂で知っていたし、何よりその人はお世辞にも美人とは言えなかったから。

あの投稿を見たのはクリスマスだったと思う。
先生の彼女のSNSには、仲睦まじく二人が寄り添う写真が投稿されていた。
なんだ、仲良くないなんて言いながら別れる気ないんだ。やっぱり彼女さん可愛くないなぁ。
あまりダメージを受けたつもりもなかったけれど、心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。

彼はわたしの外見をよく褒めてくれた。
その時は単純に私の顔が好みなんだろうと思っていたけど、この投稿を見たあとにふと気付いてしまった。

中身なんて興味がなくて見てやしないのだ。

腑に落ちた。
結局あからさまなご機嫌取りだったのだ。
全てがバカバカしくなって、年末の大掃除と称して先生のLINEをブロックした。また連絡が来るかもしれないと甘ったれた期待をしている自分が本当に嫌になった。でも結局、トーク履歴を消すことはできなかった。


年明けに実習先で先生と遭遇した。
彼も連絡が取れなくなったことに気づいていたらしく、気まずそうに会釈してきた。他人行儀なその対応を見てようやく彼との関係が終わったことを自覚した。
後悔しない日なんてなかったけど、わたしはもうこれ以上ばかな女になりたくなかった。


結局彼は計算で、わたしは執着だったのだと思う。

彼は口封じのためにわたしをもてなしていたし、
わたしは自尊心のために彼を利用していた。

自分には到底手に入らないような人間を、女という性を使い拘束することで優越感に浸る。自分へのコンプレックスを「こんなに良い男と寝ている」という事実で昇華させようとしていたのだ。

先生に抱かれているわたし、というレッテルを失うのが怖くてひたすらに執着していた。

それはきっと、恋でも愛でもなかった。

目が覚めてよかったと思う。
先生はそろそろわたしのことを面倒臭いと思い始めていただろうし、わたしはこれ以上彼に貴重な20代の時間を費やさなくて済んだ。わたしがもっと見た目も中身も素敵な女の子だったら、胸を張って恋だと呼べるような恋を彼とできたのかもしれない。


なんて、色々な言い訳を並べてはみたけれど。


先生、わたしは本当は、
ただの知り合いから始まるような、
そんな恋をあなたとしたかった。
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