彼以上なんていないのに、彼が最後が良かったのに、私を最後にして欲しかったのに。
こんなにも大事にされたことはなかった。

キープにされたり、思わせぶりな態度で弄ばれたり。今までそんな恋愛しか知らなかった。

出会ったその日、私が彼に気づくよりも先に、彼は私を見た瞬間好きになってくれたらしかった。彼からアプローチされ、好きになり、付き合って。彼は、代わり映えしない色のない私の毎日を、たくさんの幸せで染めてくれた。

きっと私も、出会ったあの日から彼に惹かれていたんだろう。
周りからすればバカな女に映っていたかもしれないけれど、本当に本当に毎日毎分毎秒大好きになっていった。彼のことが大好きだった。彼といる時の私が好きだった。彼に呼ばれる自分の名前が1番好きだった。彼さえいれば良かった。

本当に大好きだったから、幸せだったから、同じくらい失うことが怖かった。
付き合ってからも、今まで大事にされてこなかったから、私が好きだと伝えれば彼は飽きてしまうだろうか、重いと思われるだろうか、そう思ってなかなか自分から気持ちを言葉にできなかった。
それでも真っ直ぐ私のことを思ってくれた。

たくさん愛を伝えてくれる彼がどんどん好きになった。
私が知る人の中で1番優しくて、喧嘩もなくて、いつも一緒にふざけあって、毎日が楽しかった。

1日に何件もLINEのやりとりをしたこと。バイトで疲れた日、どうしても彼に会いたくて夜遅く会いに行ったこと。お互い次の日早いのに、なんて言いながら夜中まで電話したこと。初めてを捧げあったこと。2人で少しだけ遠くに旅行したこと。手を繋いで歩いたこと。一緒に買い物をして、ご飯を食べて、テレビを見て、お泊まりをして。

こんな幸せがずっと続けばいいと思った。今までは失うことが怖くて飛び込めなかったけれど、彼なら大丈夫だ、彼とならずっと一緒に笑っていられると思った。彼ならどんな私も受け入れてくれる、彼のことなら全部受け入れられると思った。彼が大事にしてくれていることに気づいていたから、私も大事にしてきた。安心しきってしまっていた。

彼の気持ちが少しずつ離れているのは感じていたけれど、気のせいだと思いたかった。信じたくなかった。見て見ぬ振りをしていれば、優しい彼は別れを告げないでくれると思った。ずるい女だから、まだ一緒にいて欲しくて、気づいていないフリで彼を愛し続けた。でもそれがダメだった。

彼は私の気持ちに応えられないからと、別れを切り出した。私が傷つく言葉も言わないでくれた。縋ってしまう惨めな私に、ずっとちゃんと好きだったと言ってくれた。最後まで優しかった。私の好きな優しい彼のままだった。

別れてからも何度も彼を思い出す。大事にされていた日々が懐かしくて、その頃の私が羨ましくて、戻りたくなる。もう一度彼に名前を呼んで欲しい。抱きしめてほしい。手を繋いでほしい。他愛もない冗談で一緒に笑ってほしい。また前みたいに。

彼と過ごした毎日が幸せすぎて、この街には彼との思い出が多すぎて、また色のない生活に戻ってしまった私には、この街で過ごすこと自体が辛くて堪らない。
嫌になるほど通いなれてしまった彼の家までの道も、一緒に手を繋いで歩いた道も、なに食べたい?なんて話ながら買い物したスーパーも、待ち合わせ場所にしていた信号も、全部思い出すたびに泣きたくなってしまう。
忘れたくてバイトを増やしても、疲れるとどうしようもなく彼に会いたくなってしまって、逆効果だった。
家を一歩出てしまえば、どこかで彼に会うかもしれない、彼の友人に会うかもしれないと思うと怖くて出れない。でもいつもの道を通れば彼に会えるかもしれない。会いたくて会いたくて堪らないのに会うのが怖い。

もう戻れないことも分かっているのに、まだ縋ってしまう。もう連絡しないから、なんて強がったけど、彼のトークを開いては閉じてを繰り返して、写真を見返して、思い出に縋っている。

これから先、いつか彼以上に好きになる人に出会えるだろうか。彼も私以上の人に出会ってしまうだろうか。彼以上なんていないのに、彼の次なんていらないのに、彼が最後が良かったのに、私を最後にして欲しかったのに。

私を大事に、特別にしてくれたように、また他の子を大事に、特別に思うかもしれない彼の未来が怖い。彼との思い出が増えすぎた街の、彼との思い出が増えるはずだった部屋で、彼との思い出に縋る私を、もう一度好きになってほしいなんてわがままで惨めな女をもう好きにならないことなんて、分かっているのに思うことをやめられない。

戻れるのなら、付き合う前に、こんなに好きになる前に、出会う前に戻りたい。大切にされる喜びを、特別になる幸せを、別れの辛さを知るくらいだったら、彼に出会いたくなんかなかった。ずっと色のないままでいたかった。彼に染まった私を、これから色褪せていく私を、誰が好きになってくれるというのか。染めたのであれば、ずっと染め続けて欲しかった。彼のそばで染まり続けたかった。
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