彼にはきっとばれていた。「私たちは親友」だなんて保身。
一生に一度の恋なんて、案外そんなに綺麗でもない。
私にとっては、酒と煙草と吐瀉物にまみれた生ゴミみたいなものだった。


賢くて、お洒落で、顔も好みで、一晩中話題の尽きない面白い人。
私のバイト先に、その彼はお客さんとして訪れた。2人ともB級ホラー映画が大好きという会話で盛り上がり、当たり前かのようにLINEを交換した。

「今度俺の家で映画観ない?」
「うん、いいよ」
始まりはそんな感じ。

週に2、3回会うようになった。
彼は仕事、私はバイトが終わった後の23時に合流。
コンビニで安いハイボールとおつまみを買って彼の家に向かい、ネトフリを観ながら胃に流し込む。
途中でキスをしたり、耳を舐め合ったり、かと思えばキッチンに2人で煙草を吸いに行ったり。

だけどセックスをしたのは半年間の中でたったの3回だけ。全部私から誘った。
事に及んだのは3回だけれど、誘った回数は20倍近くあるはず。
触れるまでもなく反応しているそこに手を伸ばすたびに「そんなことさせるために呼んだんじゃないよ」と言われた。

じゃあどうすればいいの?
私がこの家にいる理由は何?

自分の価値が「女」であること以外に何もないと思っていた当時の私。
楽しい時間を提供してもらったなら、それ相応の対価を払うべきだって思っていた。
だって、そんな大層な容姿でもないから。
それに、彼へ抱いている膨大な想いを、セックスでしか表現できなかった。
セックスをしても彼の態度が変わることもなく、私達は親友とセフレと恋人の間を延々と浮遊していた。


ある夜、いつものように換気扇の下で煙草を吸いながら、
「ずっと一緒にいられたらいいのにね」と、私は言った。

「じゃあ、どうすればいいと思う?」

笑いながら問いかけてくる彼。

あ、私が「付き合おうよ」と言ったら頷いてくれる。
そう確信した。

でも私は答えられなかった。
だって、恋人には終わりがある。
「ずっと一緒にいよう」と誓ったはずの元彼達は、結局は私の元を去っていた。
あんな惨めな思いはもう嫌だ。
友達のままなら、永遠に側にいられる。
だって友達には期待も嫉妬も制約もない。

「このままでいいよ。彼氏にするには、もったいなさすぎる男だからなあ」

やっとのことで言葉が出た。
いつ終わるか分からない関係に怯えたくない。

「そっか」
「そうだよ」
「今日はもう寝ようか」

そうしてベッドに向かい、お決まりと言わんばかりに私はちょっかいを出す。
めずらしく彼も乗り気で、そのままセックスをした。気が合う私達は相性も良い。お互いの気持ちの良いところが手に取るように分かる。
「好きだよ」と言うと、「俺もだよ」と答えてくれた。
暗くて、彼がどんな顔をしているかはよく分からなかった。

私達はセフレではない。
コミュニケーションの一環としてセックスがあっただけの、唯一無二の親友同士。
そう思い込んでいた。


それから日が経たないうちに、再び呼び出された。

「もう会えない」
予兆や心当たりなんて一切ない。
だけどその顔はどう見ても、怒っているような呆れているような表情で。
冗談でないことはすぐに分かった。

「どうして?」
「とりあえずもう会えないから。俺のLINE、今すぐブロック削除して。俺の目の前で」

嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
彼はこんなこと言わない。
そんなくだらない男みたいなこと言わない。

「早くして」

聞いたことがない冷たい声がして、スマホを取り出す。
手が震えて、息がしづらくなる。
ぐちゃぐちゃな脳とは裏腹に、スマホからはあっけなく彼の名前が削除されてしまう。

「もう帰って」
「嫌だ、なんでよ、なんでも言うこと聞くから縁切らないで」
「じゃあ、次に出会う男の人には絶対に嘘をつかないであげて。それじゃあ、元気で」

往生際の悪いみっともない女を、アパートのドアが一蹴する。
変なところで良い女ぶろうとする私は、ドアの前にすがりついて泣き喚くこともできない。
言われるがまま駅のホームに歩き、涙を拭くけど追いつかない。

嘘ってなに?
私はいつ嘘をついた?
全く記憶にないけれど、彼がその嘘に傷ついてこんな終わりになってしまったのだ。
電車に乗っても家に帰っても涙は止まらなかった。


それからの私はボロクソだった。
食べ物は何も受け付けない。
うとうとするたびに彼の夢を見るから眠ることもできない。
不意に泣き出してしまうから学校にも行けない。
共通の友人はいなかったから、連絡をとる術は一切なくて。
こんなことは初めてで、自分自身でも対処法が分からずに毎日空っぽだった。


だけど、かなり時間はかかっても傷は癒えるもので、今では笑いながら彼の話はできるし、恋人もいる。

そして気がついた。
彼にはきっとばれていたのだ。
彼氏にするにはもったいない、なんて真っ赤な嘘だってことを。
あのときの私の言葉は全部、傷つきたくないがための言い訳じみたものだったことを。
彼を好きなようで、理解しているようで、全くそんなことはなかった。
常に自分の保身のために「彼は親友」だと言い聞かせて、彼の気持ちには向き合おうともしなかった。
決着をつける機会を与えてくれていたのも無視して。
本当ならめちゃくちゃに傷ついてでも愛さなきゃいけない人だったのに、予防線ばかり張っていた。


たしかに好きで、愛しくて、あの頃の私にとっては彼が人生そのものだった。
恋と呼ぶのもおこがましい雑で散らかった経験だっただろう。

彼には、あんな日々のことはどうか美化せず、二度と思い出したくないものくらいに思っていてほしい。そのほうが私も救われるから。

なんて、最後まで身を守ってるのが笑える。
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