幸せで、幸せすぎて怖くなった。
はじめて2人で飲みに行った。

彼には他に好きな人がいることも雰囲気で分かっていたから、
意識しないように、好きにならないように、気をつけていたつもりだった。

でも2人きりでいると、いつもは周りに合わせて愛想笑いばかりしてる私が自分らしくいれた。喋りまくる私に「あきれてるかな」と思うと、何も言ってないのに「大丈夫だよ」と優しく微笑んでくれた。

きっと、私は最初から、彼のことを好きになっていた。


飲みに行った帰り、優しい彼は家まで送ってくれた。
川沿いを歩きながら、オレンジ色の電灯に照らされる彼の横顔が
とっても綺麗で、かわいくて、かっこよくて、いつまでも見ていたいと思った。

「家あがってく?」
「いいの?じゃあ、おじゃまするよ」

家に誰かがいるのは初めてで、言ったあとに片付けをしていなかったことを後悔したが、彼はずっと微笑んでいた。

「汚すぎてひいてるしょ」
「思ってたよりは全然だったね」

普段あまり話したことがなく、こんな冗談も言うんだな、と新鮮だった。


私の部屋にはテレビもなく、ゲームもなく、ただ珈琲を飲むだけの時間をすごした。

暇だろうな、帰りたいかな、と思っていたら、ふいに

「ハグってストレスが3分の1になるんだって。してみる?」

なんて言ってきた。

最初は誘ってるのかと驚いたが、彼ならいいかもしれない、と、そっと抱きしめた。

少し暗い部屋のなか、彼の匂いは心地よくて「あったかいね」という彼の声に安心して眠たくなった。
彼は何をする訳ではなく、抱きしめ合ったまま、気づいたら眠っていた。
とても優しい時間だった。


朝になって彼は帰り、それから数日して、彼は家に来て一緒にご飯を食べたりする日が増えていった。

この関係にモヤモヤした私は彼に「彼女になりたい」と言うと、「いいよ」と、ぎゅっとしてくれた。


それからの日々はとても、とても幸せだった。

彼と過ごす時間はいつだって楽しくて、彼が作ってくれて、一緒に食べるご飯はどんなお店よりも美味しくて、私の曖昧だった毎日に、彩りを、全てを与えてくれた。
一緒に手を繋いで、どこまでも歩いて散歩をしたり、浴衣を着て花火大会に行ったり、スイカを持って線香花火をしたり、初めてをたくさんくれた。


幸せで、幸せすぎて。
こんなことを知らなかった私はいつしか怖くなってしまった。

幸せなことが当たり前になりすぎて、
何をしても許してくれる彼に甘えすぎてるんじゃないか。

彼は本当は違う人といた方が彼は幸せになれるんじゃないか。
彼が居なくなってしまったら私はどうなるのか。

今まで感じたことのなかった不安を私は抑えられず、彼に八つ当たりをしてしまった。

いつかは終わるんだ。永遠に続かないなら、いっそ、と。
私は大好きなのに、別れたい、と言ってしまった。


「俺たち、もう限界かな」

彼の声色で、ああ、終わったんだ、となぜかその瞬間は安堵したのを覚えている。
同時にこの人と別れることが、こんなにも辛いのかと実感する。
臆病になり、軽く口にしたことを後悔する。
今更遅いのに。


彼の温もりを失くした私は抜け殻になった。
ご飯は味がしなくなり、出かけることが馬鹿らしくなり、酒と煙草も始めた。

優しい彼は別れた後も時々連絡をくれて、会ってくれた。

「ごめん、戻ってきて」と駄々をこねる私に
「気持ちって簡単に戻らないんだよ」と話すのを見て、
もうあの時間は、自分で彼を傷つけ続けてまで壊した幸せは、
戻ることはないのだと理解した。




あれから彼とは距離も離れ、連絡も彼から来ることはもうない。

時々来る「おやすみ」の通知に驚きつつ、嬉しくて画面を開こうとすると、
夢を見ていたのだと気づく。

あの時、臆病にならなければ。
不安を彼に押し付けず、向き合っていれば。

いつになれば、泣かない朝は来るだろうか。
彼の匂いも、声も、温もりも忘れてしまうときが来るのだろうか。


忘れるまでは、好きでいさせてね。
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