この空洞を埋めるのはあなたではなかったから
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
夫が亡くなった。
25歳年上の人だったから特別驚くことではなかった、けれどあまりにも愛し合い過ぎていて、彼に依存していたのを亡くしてから気付いてしまった。
一人だけの一戸建ての家は広い。
2人で寝ていた寝室は温もりもなく、
2人で笑って見ていた好きな番組を笑うことも出来ず、
2人で愛し合ったこの家は酷く虚しく、寂しいものになってしまった。
彼と付き合い始めて煙草をやめた。1人で飲みにもいかなくなった。いつか夫に言った。
「あなたが死んだら禁煙やめるからね」
なんて言葉は冗談で終わっていたはずだったのに、今じゃ現実だ。
夫を亡くして半年。
その熱は罪悪感か楽しみか好奇心か分からないが、私はマッチングアプリを入れた。
怒られるかもしれないが、夫の生前の「俺が死んだら次の男探していい人見つけて」という言葉に甘えることにしたのだ。
40歳。人妻子なし。趣味は映画と美術館と野球とゲーム。
いつの間にか増えた趣味は夫から私に残されたものだった。
苦手なビールを片手に眺める野球の中継は、1人で見るにはつまらないものだ。
それを埋める何かが欲しかった。
「初めまして鈴木です」
そういって挨拶をした彼は22歳大学4年生。
染めたことの無い黒髪に、夫と違う大きな丸い目とパッチリした二重が眼鏡の奥で輝いている清潔そうな好青年。
マッチングアプリで探すこと2週間、ようやくみつけた彼は夫とは違う。
優しくて、こちらに話を合わせてくれて、私が知らない趣味を持っている夫とは違う。
「旦那さんにバレたら怒られないの?」
彼は古臭い駅前のラブホテルのベッドの上でそういった。
今更そんなことを言うのかと少し冷めたけど、「知ってると思うから大丈夫」なんて流した。
彼は少し間を置いてキスをしてきた。
結論、彼は女をよく知っていた。
初めてだと言うのに、気持ちいい場所に触れられ欲しい時にキスをされた。
そしてこれは本当に亡き夫に申し訳ないのだが、彼のあそこは大きかったし硬かったので私は年甲斐もなく何度もイッた。
それから私たちは何度も会うようになった。
夏が来て秋が来て、
冬が来て春が来て、
彼は就職してからも特に変わることは無かった。
タダ飯とホテル代が付いてくるから付き合ってくれてるのかもしれないが、それでよかった。
別に恋人では無いから、クリスマスや年末年始を過ごすこともない。
その距離感が私にとっては十分で。なんとなくそれを察知できる彼はきっと頭がいいのだろう。
「これ奏さんにあげる」
そう言って彼が初めてくれたプレゼントは百貨店のハンカチだった。
夫からは貰うことは絶対ないであろうそれが何故か面白くなって笑ってしまう。
「気に入ってくれた?」
「うん、使わせてもらうよ」
「よかったぁ…これなら旦那さんにも特に言われないでしょ」
「…そうだね」
別に秘密の関係が楽しいわけじゃないのは互いにわかっている。
毎度恒例の駅前のラブホテルで私達は抱き合った。
あの人と違う細い指と私よりも大きな手。
小さな声でくすくす笑う上品さ。
そして愛してると言わないセックス。
そんな関係を続けて早4年目、私達はセフレというには深く、恋人には決してならない。
「俺、結婚するんだ」
もう何度利用したのか分からない。
もう時期溜まりそうなラブホのスタンプカードを思い出していた時、彼はそう言った。
「おめでとう、どんな子?」
「こんな子」
ベッドの中で彼は写真を見せてくれた。
一つ下の後輩らしくかわいい笑顔の子だった。
嫉妬なんてするわけが無い。
こんなオバサンからしたらかわいい娘と言えるほどの子なのだから。
それから沢山質問をした。この子のどこが好きか、どこにデートしたのか、とか至って普通の友達みたいな話。
「本当はもっと嫉妬すると思ってた」
彼は少し寂しそうな顔をして言うから、思わず目を丸くしたあと軽く頬をぺちんと叩いた。本当に優しく。
「絶対にこの子のこと幸せにしなさい。あなたにはその権利があるんだから、絶対に悲しませちゃダメだよ」
年下の威厳もなく私はボロボロ泣きながらそういった。
そうだよ悲しませちゃダメなんだ。
あの人は言っていた。
『奏ちゃんのこと泣かせないから、笑わせ続けるから俺の隣に居てください』
きっと目の前のこの子はそんなこと彼女に言わないだろうけど、だからこそ私は強く叱咤した。
ホテルのお会計を終えて、いつも通り別れ際の駅のホームで会話をしていた。ふと彼は私に言う。
「本当は旦那さん居ないんでしょ」
「…居ないよ、もう何年も前に亡くなったもん」
まるでドラマみたいに電車がやってきて、彼は驚いた顔をしていた。
もう電車に乗らなければならないけれど、乗る直前に彼に伝えれる範囲で夫のことを伝えた。
彼は君と反対でサッカーより野球が好きで、インドアな人で大声で笑って身長は低くて少し太ってて、
そして誰よりも優しく私を抱きしめて「好きだよ」という人だと。
「だから、お嫁さんのこと大事にするんだよ、もうこういうことしちゃダメだからね」
私が言えたセリフじゃないのに、その言葉を最後に私は電車に乗った。
彼は泣いていた。
私の夫ならきっとこんな出会い方はしなかった。
だって彼はSNSの使い方ひとつも知らないし、マッチングアプリを使って結婚した友達に文句を言うような人。
ひとりぼっちの家の中で久方ぶりの孤独と、あの人の熱と彼の温もりを思い出した。
この空洞を埋めるのはやはりあの人しかいないのだと気付いて、ベッドに潜ってスマホを開く。
トーク履歴の彼をブロックして消して、暗い天井をしばらく眺めていた。
25歳年上の人だったから特別驚くことではなかった、けれどあまりにも愛し合い過ぎていて、彼に依存していたのを亡くしてから気付いてしまった。
一人だけの一戸建ての家は広い。
2人で寝ていた寝室は温もりもなく、
2人で笑って見ていた好きな番組を笑うことも出来ず、
2人で愛し合ったこの家は酷く虚しく、寂しいものになってしまった。
彼と付き合い始めて煙草をやめた。1人で飲みにもいかなくなった。いつか夫に言った。
「あなたが死んだら禁煙やめるからね」
なんて言葉は冗談で終わっていたはずだったのに、今じゃ現実だ。
夫を亡くして半年。
その熱は罪悪感か楽しみか好奇心か分からないが、私はマッチングアプリを入れた。
怒られるかもしれないが、夫の生前の「俺が死んだら次の男探していい人見つけて」という言葉に甘えることにしたのだ。
40歳。人妻子なし。趣味は映画と美術館と野球とゲーム。
いつの間にか増えた趣味は夫から私に残されたものだった。
苦手なビールを片手に眺める野球の中継は、1人で見るにはつまらないものだ。
それを埋める何かが欲しかった。
「初めまして鈴木です」
そういって挨拶をした彼は22歳大学4年生。
染めたことの無い黒髪に、夫と違う大きな丸い目とパッチリした二重が眼鏡の奥で輝いている清潔そうな好青年。
マッチングアプリで探すこと2週間、ようやくみつけた彼は夫とは違う。
優しくて、こちらに話を合わせてくれて、私が知らない趣味を持っている夫とは違う。
「旦那さんにバレたら怒られないの?」
彼は古臭い駅前のラブホテルのベッドの上でそういった。
今更そんなことを言うのかと少し冷めたけど、「知ってると思うから大丈夫」なんて流した。
彼は少し間を置いてキスをしてきた。
結論、彼は女をよく知っていた。
初めてだと言うのに、気持ちいい場所に触れられ欲しい時にキスをされた。
そしてこれは本当に亡き夫に申し訳ないのだが、彼のあそこは大きかったし硬かったので私は年甲斐もなく何度もイッた。
それから私たちは何度も会うようになった。
夏が来て秋が来て、
冬が来て春が来て、
彼は就職してからも特に変わることは無かった。
タダ飯とホテル代が付いてくるから付き合ってくれてるのかもしれないが、それでよかった。
別に恋人では無いから、クリスマスや年末年始を過ごすこともない。
その距離感が私にとっては十分で。なんとなくそれを察知できる彼はきっと頭がいいのだろう。
「これ奏さんにあげる」
そう言って彼が初めてくれたプレゼントは百貨店のハンカチだった。
夫からは貰うことは絶対ないであろうそれが何故か面白くなって笑ってしまう。
「気に入ってくれた?」
「うん、使わせてもらうよ」
「よかったぁ…これなら旦那さんにも特に言われないでしょ」
「…そうだね」
別に秘密の関係が楽しいわけじゃないのは互いにわかっている。
毎度恒例の駅前のラブホテルで私達は抱き合った。
あの人と違う細い指と私よりも大きな手。
小さな声でくすくす笑う上品さ。
そして愛してると言わないセックス。
そんな関係を続けて早4年目、私達はセフレというには深く、恋人には決してならない。
「俺、結婚するんだ」
もう何度利用したのか分からない。
もう時期溜まりそうなラブホのスタンプカードを思い出していた時、彼はそう言った。
「おめでとう、どんな子?」
「こんな子」
ベッドの中で彼は写真を見せてくれた。
一つ下の後輩らしくかわいい笑顔の子だった。
嫉妬なんてするわけが無い。
こんなオバサンからしたらかわいい娘と言えるほどの子なのだから。
それから沢山質問をした。この子のどこが好きか、どこにデートしたのか、とか至って普通の友達みたいな話。
「本当はもっと嫉妬すると思ってた」
彼は少し寂しそうな顔をして言うから、思わず目を丸くしたあと軽く頬をぺちんと叩いた。本当に優しく。
「絶対にこの子のこと幸せにしなさい。あなたにはその権利があるんだから、絶対に悲しませちゃダメだよ」
年下の威厳もなく私はボロボロ泣きながらそういった。
そうだよ悲しませちゃダメなんだ。
あの人は言っていた。
『奏ちゃんのこと泣かせないから、笑わせ続けるから俺の隣に居てください』
きっと目の前のこの子はそんなこと彼女に言わないだろうけど、だからこそ私は強く叱咤した。
ホテルのお会計を終えて、いつも通り別れ際の駅のホームで会話をしていた。ふと彼は私に言う。
「本当は旦那さん居ないんでしょ」
「…居ないよ、もう何年も前に亡くなったもん」
まるでドラマみたいに電車がやってきて、彼は驚いた顔をしていた。
もう電車に乗らなければならないけれど、乗る直前に彼に伝えれる範囲で夫のことを伝えた。
彼は君と反対でサッカーより野球が好きで、インドアな人で大声で笑って身長は低くて少し太ってて、
そして誰よりも優しく私を抱きしめて「好きだよ」という人だと。
「だから、お嫁さんのこと大事にするんだよ、もうこういうことしちゃダメだからね」
私が言えたセリフじゃないのに、その言葉を最後に私は電車に乗った。
彼は泣いていた。
私の夫ならきっとこんな出会い方はしなかった。
だって彼はSNSの使い方ひとつも知らないし、マッチングアプリを使って結婚した友達に文句を言うような人。
ひとりぼっちの家の中で久方ぶりの孤独と、あの人の熱と彼の温もりを思い出した。
この空洞を埋めるのはやはりあの人しかいないのだと気付いて、ベッドに潜ってスマホを開く。
トーク履歴の彼をブロックして消して、暗い天井をしばらく眺めていた。