ねえお父さん、わたしお父さんから教えて貰えなかったものが多すぎると思います。
勉強を教えてもらうとか一緒にキャッチボールとかは勿論なかったけど、それよりも甘え方とか正しい家族の形を教えて欲しかった。
大好きだった人に「結婚したらさ、」って言われる度にビクビクしながら過ごしていました。正しい家族を知らないわたしじゃ、幻滅されるんじゃないかと思ってました。

ねえお父さん、貴方の娘はとても強い子に育っていると思います。
養育費を払ってくれなかったおかげで、家には大体1人でした。そういう自立せざるを得ない環境で育って、寂しい時に「寂しい」って言わない女になりました。
自分の思ったこと感じたことそのまんま伝えたらダメなんだと、自分の感情を押し殺しながら相手の気持ちを汲み取ってここまで生きてきました。おかげさまでたくさんの男の人にチヤホヤされて生きてこれたよ。

ねえお父さん、今日お昼の食堂でわたしと大好きだった人との思い出の曲が流れました。
わたしが大好きだったバンドの、わたしが彼におすすめしてあげた歌。彼の車で何度も聞いた歌。彼がわたしに、「俺たちの歌」って言ってくれた歌。
1年以上も前の歌なのに、普段は流行りの曲しか流さないくせに、よりによって今日、彼の誕生日にあの歌が流れました。

娘のこんな話興味ないかもしれませんが、彼はわたしのこと大事にしてたくさん愛情をくれた人でした。私と結婚する未来を当たり前に考えてくれた人でした。会いたいとか言えない私に代わって、会いにきてくれるような人でした。お父さんのことがあって男の人を信じられなかったわたしが、唯一信じられた人でした。
最終的には、甘えられないわたしと甘えて欲しい彼でズレが生じて、彼に置いていかれてしまったけど。お父さんのおかげで強い子に育ったけれど、それは恋愛では弱者のようです。


ねえお父さん、お父さんにとって冬って誰の季節ですか？
わたしにとって、冬は彼の季節です。雪で転びそうなわたしの手を取った彼とか、わたしの下手くそなサプライズに精一杯喜んでくれる彼とか、冷え性のわたしをあっためてくれた彼とか、クリスマスにちゃんとホームアローン観る彼とか。そういうのばっかり、未だに思い出します。

ねえお父さん、別れて一度会ったっきりの彼のブロックを解除してみました。
会おうって言われて会いに行って、付き合ってた頃と何も変わらない彼と一緒の時間を過ごして、帰ってから少し泣きました。わたしのことまだ好きだったら良かったのにって思って泣きました。
そこから何度か連絡をとったけれど、彼のことを忘れたくて全部消しました。ケータイには何も履歴がなかったから、わざわざパソコンからログインして解除してみました。

ねえお父さん、彼に「お誕生日おめでとう」って送ってもいいと思いますか。「会いたい」って送ってもいいと思いますか。
貴方が私の父親だから聞くんではなくて、貴方が私から離れていった人だから聞きたいの。
彼の季節が終わるまでに、ずっと好きだったって伝えてもいいですか。