私は明日も、最高記録の可愛さを更新してあなたのいるバイト先に行くよ
「可愛くなったね。」

吹き出しに表示された文字を見つめて、私はスマホを握り締めながら夜中にぼろぼろと涙をこぼしていた。

二ヶ月前に別れた彼とは未だに頻繁に連絡をとっている。
付き合っていた頃と違うのは、おはようやおやすみが無いこと。それから、当てつけのように元カノやバイト先の可愛い女の子の話をしてくるようになったことくらい。

付き合っていたときから、わざわざ私に他の可愛い女の子の話をして嫉妬させるような人だった。いつでもそれが悲しくて、でも負けたくなくて、私は彼と付き合う前と比べて明らかに可愛くなった。

一重瞼を毎日アイプチで二重にするようになった。
19年付き合ってきたメガネをコンタクトに変えた。
いつも広がるからとひっつめているだけだった長く太い癖毛は、彼とお揃いのちょっとお高いシャンプーと丁寧なケアで朝何もしなくても下ろしていられるくらいの髪質まで改善した。
不器用だからと諦めていた巻き髪も今ではすっかりお手の物だし、服装も彼好み、そして自分好みの着こなしになった。

誰が見ても、”それなりに見た目に気を遣って頑張っている女の子”にはなれたと思う。
それでも、可愛いと彼が言ってくれることはそう多くなかった。
彼が他の女の子や元カノを可愛いと褒めるたびに、やっぱり自分は彼のお眼鏡にはかなわないのかな、と悲しくなった。


些細なことでお別れをして二ヶ月、彼と同じバイト先で働くことになったり、いつも彼が褒めていた女の子と仲良くなったりといろいろなことが変わった。
メンタルが安定しないタイプの私も自分に合うバイト先に出会ったことで前向きにもなれたりして、環境的にも気持ち的にも自分の中ですごく変化の大きい時期だったと思う。

そうしていつものように夜中に彼とLINEをしていたある日、なぜだったか付き合っていた頃の話が始まった。
アイドルだの偶像だの言い訳をしながらバイト先の女の子を褒めるのを聞いていて悲しかった、と伝えたら、彼は言った。

「でもそれを受けて君はコンタクトにしたし、服の好みも変わったよね。」
「そういうところが素敵なところだと思うよ。」
「可愛くなったね。」

それはずっと、私が一番欲しかった言葉だった。


私は昔から、自分に自信がなくて仕方がなかった。
容姿も性格もコンプレックスだらけで、彼と居ても本当に愛されているのかすぐに不安になって。そういう自己嫌悪で何度も彼のことを困らせていたと思う。

それでもようやく彼と過ごしたおかげで容姿が整って少しずつ自分に自信が持てるようになって、友達が増えたりバイトを頑張るようになってだんだんと自分の中で何かが変わるのは実感していて。
だけどやっぱり、どうしても、彼に可愛いと思って欲しかった。たった一言、彼からの「可愛い」が欲しかった。

お別れして二ヶ月。そんなタイミングで彼から一番欲しかった言葉を貰ってしまった私は、布団の中でぼろぼろと泣きながら「あのね」と一言打った。

正直、未練しか無かった。
確かに一度は吹っ切ったつもりだったし、一人で前を向こうとも思えた。それでもバイト先で顔を合わせて話すようになると、やっぱり素敵な人だな、と再確認してしまう。未練というよりは、新たな片思いをしているような気持ちだった。
彼の言葉で舞い上がっていた私は、まだ好きなのだと零してしまいそうになっていた。

でもやっぱり、今じゃない。まだ早い。
いくら変わったといっても、私はまだ私に納得していない。
一度は思いとどまって、なんでもないよと誤魔化した。だけど彼は、酔ってるし明日には忘れるから、と私の言葉の続きを聞き出そうとしてきた。

あれ?いけるかも?なんて一瞬でも思った私がいたのは事実だ。
可愛くなった、素敵になった、変わったよねって。そんな風に褒めるから、自惚れ半分だったのも事実だ。

「本当はまだ好きだよ」

恥ずかしくなって咄嗟に、二度と言わないけど、と付け足した。
そうしたら、二度と言うなよ、と返ってきた。やっぱり付き合うのは違うかも、とも。

ああ、言わなきゃ良かった。そうだよね。可愛くなっても、素敵になっても、一度捨てたものはもういらないよね。ごめんね。彼のメッセージを読みながらもう一度泣いた。
明日には忘れるから、と言われて零したはずの告白を、忘れないでね。と念を押す。彼は言う。

「まあでも、忘れるよ。君は素敵な女の子になったよ」

そういうのが悪いんだよ、と怒る私に、また彼は言った。

「それはそうだね。でも可愛いと思う」

もう褒めないでくれ、と思った。苦しかった。
だって、ずっと彼の言葉が欲しかった。あの子が可愛い、じゃなくて私に可愛いって言って欲しかった。変わったねって言われたかった。だから、そう言われてしまったら報われてしまう。たとえ恋が叶わなくても。

こんなことなら、いっそ何一つ叶わなくてよかった。このままずっと傷つき続ければ嫌いにさえなれるって信じてきたのに、そんな風に褒められたらまた離れられなくなってしまう。上げて落とすくらいなら、一生当てつけみたいに元カノや他の子を褒める無害めいた暴力で私を傷つけ続けてくれたらよかったのに。

最後に、今これを読んでいるかもしれないあなたへ。私があなたを好きでいることをやめられなかったのは、あなたがダメなことをダメときっぱり言えるのと同じくらい、素敵なことを素敵だと言える優しい人だったからだよ。そういうあなたの素直なところが本当に好きだったし、今でもずっと好きだよ。

可愛くなったって言ってくれてありがとう。

私は多分明日も、結んだ髪を緩く巻いて、最高記録の可愛さを更新してあなたのいるバイト先に行くよ。あなたが可愛いと思う今の私よりさらに何倍も可愛くなってやるから、早く振ったことを後悔して、絶対言ってね。
「可愛いね」って。
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