舞台の上で輝くあなたを、画面越しに見るだけの生活に戻る。
彼と私の関係性は、演者とただの観客だった。

チケットが余ってしまったからと、友人から半ば無理やり誘われたある公演。
ガチの追っかけをしていた友人とは対照的に、
私は最後まで演者の見分けも付かなかった。
けれどその面白さに、最後には私も大爆笑していた。


公演後、DMしたらイけた!と騒ぐ友人に連れられて居酒屋に行くと、
さっき舞台の上に居たあの面白い人達の姿が。
正直まだ誰がなんて名前だったか覚えきれていなかったけど、さすがは話のプロ。話もお酒も進んだ。
話題は誰のファン?という話に。
その場で選ぼうにも誰の名前も分からず、話を濁そうと私でも知っている少し有名どころの名前を出した。

「おっ、ご指名です〜!」

この場から選べなくて適当に出した名前だったはずなのに。
それも大して知りもしない、思い付きで言ったのに。
テーブルの奥に、彼は居た。
衝撃だった。

彼はあまり会話を盛り上げるタイプではなく、ぼそっと発言して周囲の数人をクスッと笑わせていたらしい。
遠く離れた席に座っていた私にとって、存在感があまりにも無さすぎた。
言ってしまった手前もう後に引けなくなった私は、周りに囃されて隣の席に移動した。
コミュ力おばけな友人はその間に別の人に猛アプローチを繰り広げており、面白そうと判断した他の演者の方は続々とそちらに応戦した。
話題に取り残された私と、無口な彼。
地獄のような空間だった。

「ほんまのこと言っていいよ」

彼がおもむろにそう言った。
あんまり詳しくなくて、気を遣って自分を名指ししたんだろうと。
私が正直に経緯を話すと、失礼やな、と大笑いされた。
彼の笑顔に心底救われた。
久々に下心じゃない子と知り合ったのが嬉しい、と連絡先をもらった。
俺の事もうちょっと知りたくなったらいつでも連絡していいよ、と。


その後、タクシー代のお礼で連絡したことをきっかけにやり取りして、何度か食事を重ね、成り行きのまま関係を持った。

多分このときにはもう、私は彼のことが好きだった。


「また公演を見に行ってもいい?最初は全然ファンじゃなかったけど、すっかりファンになっちゃった。それでも、また公演の後に会ってもいい?」

私が聞くと、彼は「いいよ」と笑ってくれた。

「ファンとは付き合えないけど、でもそんなに気を遣わなくていいよ、キスしてもいいし、会いたくなったら公演の後じゃなくても会いたいって言っていいよ」

そう優しく諭しながら私を懐柔して、抱きしめながら愛撫されて、ぐずぐずに絆された。
こうして、彼のセフレであることを許され、いいよ、いいよと言われ続けるうちに、
いつしか彼の肯定が、私の全てになっていた。
身体を重ねても、「イっていいよ」の言葉なしには絶頂できないくらい、心底彼に依存した。


彼の上京は唐突だった。

もっと芸に磨きをかけたい。
そう夢を語る彼に、私は「行っていいよ」と言う資格すらなかった。
彼女でも何でもない、ただの観客でありセフレの私。
「活躍の場所は変わってもずっとファンです、必ず東京まで観に行きます」とだけ伝えた。
「交通費馬鹿にならんて、そんなに頑張らなくていいよ」と、彼は笑った。


私にとって、彼の"いいよ"がこの世の全てだった。
彼が追いかけて来なくてもいいと言っているなら、私はそれに従うまでだった。
彼が上京したと同時にファンをやめ、連絡も絶った。

それからの彼の居ない毎日は、それまで何を楽しみに生きていたか分からないくらい空白になった。
寂しさを紛らわせようと新しい人と寝ても、
キスはどうすればいいかも、いつイけばいいのかも、何も分からない。
彼がいない私は、何もできなくなっていた。


私が今、何の許可なしにできることは、
時折メディアで見かける彼らのネタで笑うこと。
それから、彼を思い出してちょっと泣くこと。

それだけだ。
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