君の初めてにはなれないから、君の最後になりたいって言ったら重いだろうか
「よかったら、俺と付き合ってくれませんか」

理想そのものの告白をしてくれた先輩は、かっこよくて、でもなんだか可愛くて。
あっという間に大好きになってしまった。

歩くときに、必ず車道側を歩いてくれるところ。
歩幅を合わせてくれるところ。
エスカレーターの前後ろを気遣ってくれるところ。
「寒いね」って言ったらすぐにコートをかけてくれて、逆に、「暑いね」って言ったら手持ちの扇風機をあててくれるところ。
毎日の電話を切る前には必ず「好きだよ」って言ってくれるところ。
何も言わなくても、どんな瞬間も手を繋いでくれて、私を愛おしそうに抱きしめて、キスしてくれるところ。
全部が大好きだった。


彼と付き合ってから少し経った頃。
夜の公園でいつものように、抱きしめてキスをして。
その日もまたすごく幸せだった。

「あのさ、もし俺がそういうことしたいって言ったらどうする?」

不意に彼が言った。
嫌じゃなかった。
でも、出た言葉は「わからない」だった。
今までに何人かと付き合ったが、そういう経験はない。
だから怖かった。自信がなかった。
スタイルもよくないし、自分を曝け出すのが怖かった。
嫌われたらどうしようか。
そう考えたらまだ、そういうことができる自信がない。

「今までにさ、そういう経験はある?」
「ううん、ない」

私の返事の後、彼は「ごめん」と謝って来た。

君は今まで何人の人とそういうことをしてきたの?
聞きたかったけど、聞けなかった。

「やっぱ、じゃあさ、ゆっくりでいいや」

そう言って微笑んで、また優しく抱きしめてくれる彼の顔を見た。
優しさと、その優しい声で、手で、抱きしめられていたのは私だけじゃない。
私は君の初めてじゃない。
そう自覚して、泣きそうだった。

私の初めては君がいい。でもどうしたって君の初めてにはなれない。
最初になれないなら、せめて、君の最後になりたいって言ったら重いだろうか。

でも、私はそのくらいの覚悟がないと身体を許せない。
こんなに優しい彼にさえそう思ってしまう自分が嫌いだ。
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