みんなそんなにカンタンに恋に落ちてるんだろうか。
行為中隠した手のひらの隙間から、余裕のない顔が見える。
いつも柔らかい口元がきつく結ばれている。それだけで胸が高鳴った。

「好き」という言葉が音になってこぼれる。
実際その時の私の中で、その意味を理解なんてしていない。
ただ、その「好き」という記号で、彼の動きはもっと早くなった。

行為が終わってしまえば、達成感に似た何かだけが残る。

服を着て彼の隣に横たわり、天井を見上げた。
長い腕が伸びてきて引き寄せられる。特に抗うこともしないで、私よりも20センチ以上も大きい体にすっぽりと収まる。


背が高く、頭がよく、顔がいい。だけどグイグイといく方ではない彼に、幾人もの女の子が好意を持って告白していた。
時には勝手に、周りの女の子たちがギスギスしていた。
彼がそれを重荷に思っていることも、知っていた。

彼が大企業に勤める社会人になって、それはもっと顕著になった。
「年収」という記号も乗って、彼には誘いがさらに増えたみたいだった。

そんな彼だから、私は安心して体の関係を持った。
私は「恋愛」という記号に疲れ切っていた。仕事は私の時間と思考の全てを奪って、家族や友達を大切にするので精一杯だった。


運動をこなして疲れた私は、腕の中でこんこんと眠った。大抵私が先に眠ってしまう。
目覚めると大抵彼は先に起きていて、「気持ちよさそうに寝てて羨ましい」と笑って言う。

「またこないだのところにうなぎ食べに行かない?」
「えー、私以外の人見つけなよ」
「出会いがないからなあ」
「アプリとかしてみたら?」
「ああいうのはちょっと抵抗があるかな」

アプリをするならどの写真がいいのか選んであげたいから写真見せて、スマホを覗こうとしたら、「やめろ」と彼は笑って抵抗する。


「会社の先輩と体の関係になってこちらは好きになってしまったが、付き合ってはもらえない」という悩み相談のコラムを思い出す。
相談者が変われど、似たような恋愛相談話が繰り返される。
そしてアドバイスは決まって言葉を変えながら、最初から体を許すな、甘い言葉に釣られるなと言う。

女性は最初から体を許してはいけない。という言葉がよく聞かれることがその証明であるように、体を許せば心も好きになると思ってたけど。

試してみたくなって、寝ていた相手の顔をまじまじと見る。
特に彼以外と寝たいわけでもなかった。
だからと言って、彼が他の誰と寝てるのかを知りたいと思ったことさえなかった。


「ちょっと痩せた?」彼に問う。
「仕事が忙しくてさ」と言って彼は最近の仕事について話す。
話すのが上手な彼のおかげで彼の業種について少しだけ理解できるようになった。私の反応を見ながら説明する彼は先生みたいだ。

話している彼の頭を撫でる。柔らかい髪が気持ちよかった。
彼のことはとても大切だと思っているし好きだ。行為中の好きも、一緒にご飯を食べているときの好きも、全部嘘ではない。
なのに、世間一般で見る異性に対する「好き」に届かない自分が、欠落者みたいに思える。

みんなそんなにカンタンに恋に落ちてるんだろうか。


中学生から高校に上がって体育でのサッカーは男女別々になった。体力と体格の差は大きく開いて、心だけが置いていかれた。
なぜか分からないけど、あのときの悲しさを思い出してしまう。彼の頭を胸の中に無理矢理引き寄せる。

自分に性欲があること、人肌恋しいという異性でしか埋められない感情があることを静かに恨みながら、
思わず「大好きだよ」と呟く。
俺もだよ、と言う声がお腹のところで鳴って、余計に泣きたくなる。
身長の高い彼の頭にしがみつくような格好は、きっと私の心みたいにチグハグだった。
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