「男二人でベッドに寝るとか、ホモみたいでキモいじゃん」
僕に優しいあの彼が好きだった。
専門学生時代、周りに馴染めず一人でいることが多かった僕に「一人?俺らのグループに来る?」と別コースの彼が声を掛けてくれた。
パッとしない学生時代だったが、その日から僕はそのグループに馴染めて友達も増えた。
彼のおかげだ。
僕はボーカル科で、彼は別コースの音響科。学校で会える時間は少なかった。
彼を含めた音響科のグループにいるときは本当に楽しくて、ボーカル科にいるときは孤独を感じていた。
ある日、ボーカル科でトラブルが起きてひどく沈んでいた学校帰り、彼がまた声を掛けてくれた。
「今日車で来たんだけど、ドライブでも行くか」
嬉しくて、彼の助手席に初めて座った。
彼がバイトしているハンバーグ屋に連れて行かれ、何故か職場の人達に紹介をされた。
日頃僕のことを話していたのか、職場の方々はすごく優しくて、ご飯もサービスしてくれた。彼の周りは優しくて温かい人ばかりだ。
夜遅くなっていたが、彼に「もう一つ行きたいところがある。楽しみにしてて欲しいから下を向いてて」と言われ、どこだろうと思いながら下を向いていた。
「着いた!顔を上げて良いよ」
顔を上げると、そこは地元で一番有名な夜景スポットだった。僕は地元なのにも関わらず一度も来たことがなかった。
夜景に本当に感動して、思わず声が出てしまった。
「元気出たか?お前の笑顔が見れて良かったわ」
そう彼は言った。
元気がなかったことを見透かされて恥ずかしかったからか、そんなことを言われて恥ずかしかったからか分からないが、僕は赤面した。
記念に写真も撮った。LINEのアイコンにもして、僕は何かある度このアイコンを見ては元気をもらっていた。
それから何度も二人で遊んだり、夜に海に行っては弾き語りもした。
彼の弾くギターに僕の歌声を乗せていた。
当時ギターを始めたばかりで下手くそだった僕にギターを教えてくれた。
決まって学校終わりに海で弾き語りをしては楽しんだ。
世間でいう青春という期間を過ごした気がする。
そんなある日学校では、「お前らデキてんじゃねえの?」とか「もうヤッたのか?」など友達や教師の間までも変な噂が飛び交っていた。
その彼がプレゼンで皆の前に立ったときにも、その声が投げかけられた。
「俺は別にあいつとデキてるって思われてても良いです。本当にあいつは良い奴だから」
彼は堂々と言い切った。その姿を見て、初めて今までにない感情を抱いた。
これは友達として好きなのか、恋愛感情としての好きなのか。
でも、彼にはちゃんと彼女もいる。
当時僕は田舎に住んでいたからか、僕のまわりに同性愛者がいなかったため、恋愛感情になってしまってはダメだと自分に言い聞かせていた。
そんなこんなで月日は過ぎ、僕の誕生日を迎えた。
家の近くのコンビニに彼に呼び出された。
彼は少し遅刻して来たが、特におめでとうの言葉もなければプレゼントもなかった。
少し悲しかった。期待してる自分がいけないんだとも思った。
数分雑談をした後、彼は車でバイトに向かった。
何のために呼び出されたのだろうと思いながら家に帰ると、母が「部屋に上がってごらん」と言ってきた。
不思議に思いつつ部屋に上がると、前に彼と遊んだときに僕が欲しがっていたポケモンのぬいぐるみがベッドに置いてあった。
びっくりした僕は彼に電話をしようとする。先に彼から電話がかかってきた。
「びっくりしたでしょ?誕生日おめでとう。いつもありがとうな」
本当に嬉しかった。
嬉しかったが、親しい友達とは言え、こんなサプライズをしてくれるのはどういう意味だろうと余計なことを考えてしまう自分が情けなかった。
夏休みになり、彼の提案で、車で3時間ほどかかる場所に二人で旅行に行くことになった。昼間は海で泳いだりして遊んだ。
今まで夏らしい夏休みを過ごしたことがなかった僕は、誘ってくれた彼に本当に感謝した。
夜は海の近くのビジネスホテルに泊まることになっていたが、予約内容をよく読んでいなくてダブルベッドの部屋を予約してしまっていた。
部屋に入るなり焦ったが、その瞬間心の中で覚悟を決めていた自分もいた。
でも、彼は床に寝た。何度も声を掛けたがどうやら一緒のベッドに男二人で寝るのは嫌らしい。
「男二人でベッドに寝るとか、ホモみたいでキモいじゃん」
彼のその言葉に、深く傷ついた。
そもそも傷つくということは、僕はもう彼を恋愛対象として見てしまっているのかと自分を責めた。
次の日も、心から楽しめない自分がいた。
学校が始まり、彼から連絡が疎かになった。
LINEを送っても忘れた頃に返信が来るようになった。
友達から聞いたのだが、彼は別の女の子に、前に僕にしてくれていたようなことをしていたのだ。
彼女がいるにも関わらず女の子に思わせぶりな態度をとっていたから、音響科の中で彼の悪い噂が広がった。
これはいけないと思い、強引に彼を呼び出し話をした。
彼は、「わかりましたよ。じゃあ一生あの子とは関わりませんよ」と大きく開き直った。
その態度が頭にきた僕は、その日以降、彼との連絡を遮断した。
僕に優しくしてくれたあの期間は一体何だったんだろう。
どういうつもりだったんだろう。彼の思わせぶりは僕のなにもかもを変えた。
そのまま卒業を迎え、あれから彼と全く話すことないまま卒業した。
今彼は何をしているのかも知らない。
僕は専門学校を卒業後、音楽活動に専念するため上京し、その裏であれからいくつか恋もした。
でも、その度に彼の顔を思い浮かべてしまう。比較してしまう。
今では恋愛対象は同性になってしまったが、後悔はしていない。
彼と過ごした日々は恋愛ではなかったが、僕にとっては何もかもが大きなきっかけで。
僕は今も歌を歌い続けている。
いつかの彼に届くように。
専門学生時代、周りに馴染めず一人でいることが多かった僕に「一人?俺らのグループに来る?」と別コースの彼が声を掛けてくれた。
パッとしない学生時代だったが、その日から僕はそのグループに馴染めて友達も増えた。
彼のおかげだ。
僕はボーカル科で、彼は別コースの音響科。学校で会える時間は少なかった。
彼を含めた音響科のグループにいるときは本当に楽しくて、ボーカル科にいるときは孤独を感じていた。
ある日、ボーカル科でトラブルが起きてひどく沈んでいた学校帰り、彼がまた声を掛けてくれた。
「今日車で来たんだけど、ドライブでも行くか」
嬉しくて、彼の助手席に初めて座った。
彼がバイトしているハンバーグ屋に連れて行かれ、何故か職場の人達に紹介をされた。
日頃僕のことを話していたのか、職場の方々はすごく優しくて、ご飯もサービスしてくれた。彼の周りは優しくて温かい人ばかりだ。
夜遅くなっていたが、彼に「もう一つ行きたいところがある。楽しみにしてて欲しいから下を向いてて」と言われ、どこだろうと思いながら下を向いていた。
「着いた!顔を上げて良いよ」
顔を上げると、そこは地元で一番有名な夜景スポットだった。僕は地元なのにも関わらず一度も来たことがなかった。
夜景に本当に感動して、思わず声が出てしまった。
「元気出たか?お前の笑顔が見れて良かったわ」
そう彼は言った。
元気がなかったことを見透かされて恥ずかしかったからか、そんなことを言われて恥ずかしかったからか分からないが、僕は赤面した。
記念に写真も撮った。LINEのアイコンにもして、僕は何かある度このアイコンを見ては元気をもらっていた。
それから何度も二人で遊んだり、夜に海に行っては弾き語りもした。
彼の弾くギターに僕の歌声を乗せていた。
当時ギターを始めたばかりで下手くそだった僕にギターを教えてくれた。
決まって学校終わりに海で弾き語りをしては楽しんだ。
世間でいう青春という期間を過ごした気がする。
そんなある日学校では、「お前らデキてんじゃねえの?」とか「もうヤッたのか?」など友達や教師の間までも変な噂が飛び交っていた。
その彼がプレゼンで皆の前に立ったときにも、その声が投げかけられた。
「俺は別にあいつとデキてるって思われてても良いです。本当にあいつは良い奴だから」
彼は堂々と言い切った。その姿を見て、初めて今までにない感情を抱いた。
これは友達として好きなのか、恋愛感情としての好きなのか。
でも、彼にはちゃんと彼女もいる。
当時僕は田舎に住んでいたからか、僕のまわりに同性愛者がいなかったため、恋愛感情になってしまってはダメだと自分に言い聞かせていた。
そんなこんなで月日は過ぎ、僕の誕生日を迎えた。
家の近くのコンビニに彼に呼び出された。
彼は少し遅刻して来たが、特におめでとうの言葉もなければプレゼントもなかった。
少し悲しかった。期待してる自分がいけないんだとも思った。
数分雑談をした後、彼は車でバイトに向かった。
何のために呼び出されたのだろうと思いながら家に帰ると、母が「部屋に上がってごらん」と言ってきた。
不思議に思いつつ部屋に上がると、前に彼と遊んだときに僕が欲しがっていたポケモンのぬいぐるみがベッドに置いてあった。
びっくりした僕は彼に電話をしようとする。先に彼から電話がかかってきた。
「びっくりしたでしょ?誕生日おめでとう。いつもありがとうな」
本当に嬉しかった。
嬉しかったが、親しい友達とは言え、こんなサプライズをしてくれるのはどういう意味だろうと余計なことを考えてしまう自分が情けなかった。
夏休みになり、彼の提案で、車で3時間ほどかかる場所に二人で旅行に行くことになった。昼間は海で泳いだりして遊んだ。
今まで夏らしい夏休みを過ごしたことがなかった僕は、誘ってくれた彼に本当に感謝した。
夜は海の近くのビジネスホテルに泊まることになっていたが、予約内容をよく読んでいなくてダブルベッドの部屋を予約してしまっていた。
部屋に入るなり焦ったが、その瞬間心の中で覚悟を決めていた自分もいた。
でも、彼は床に寝た。何度も声を掛けたがどうやら一緒のベッドに男二人で寝るのは嫌らしい。
「男二人でベッドに寝るとか、ホモみたいでキモいじゃん」
彼のその言葉に、深く傷ついた。
そもそも傷つくということは、僕はもう彼を恋愛対象として見てしまっているのかと自分を責めた。
次の日も、心から楽しめない自分がいた。
学校が始まり、彼から連絡が疎かになった。
LINEを送っても忘れた頃に返信が来るようになった。
友達から聞いたのだが、彼は別の女の子に、前に僕にしてくれていたようなことをしていたのだ。
彼女がいるにも関わらず女の子に思わせぶりな態度をとっていたから、音響科の中で彼の悪い噂が広がった。
これはいけないと思い、強引に彼を呼び出し話をした。
彼は、「わかりましたよ。じゃあ一生あの子とは関わりませんよ」と大きく開き直った。
その態度が頭にきた僕は、その日以降、彼との連絡を遮断した。
僕に優しくしてくれたあの期間は一体何だったんだろう。
どういうつもりだったんだろう。彼の思わせぶりは僕のなにもかもを変えた。
そのまま卒業を迎え、あれから彼と全く話すことないまま卒業した。
今彼は何をしているのかも知らない。
僕は専門学校を卒業後、音楽活動に専念するため上京し、その裏であれからいくつか恋もした。
でも、その度に彼の顔を思い浮かべてしまう。比較してしまう。
今では恋愛対象は同性になってしまったが、後悔はしていない。
彼と過ごした日々は恋愛ではなかったが、僕にとっては何もかもが大きなきっかけで。
僕は今も歌を歌い続けている。
いつかの彼に届くように。