嫉妬も、可愛いって言葉も、優しい眼差しも好きだからした訳じゃなかったんだ。
4月の夜、バイト帰りの彼に久しぶりに電話をかけた。
いつも通りの雑談から初めて、少し前の喧嘩を謝った。
もう何も言い残すことは無い。後ろめたいことも無い。あとは彼の気持ちだけ。

「ずっと聞きたかったんだけどさ」
「ん?」
「私の事、好きじゃないでしょ」

諦めと恐怖とちょっとの希望を胸に発した私の声は、呆れるくらいに明るくて、いつも通り笑っていた。


気心の知れた親友だった彼と恋人になって9ヶ月。

付き合いとしては4年目の初夏に私から告白して、耐えられないというように着いたため息とともに、心底愛おしそうに、「可愛い」と呟かれた。
「付き合ってください」とも言われた。恥ずかしくて、幸せで、胸がいっぱいだった。

その時と同じため息。
違うところがあるとすれば、手を繋いで、ハグもして、キスもしたけれど、セックスまではしてくれなかったことだけ。
この1ヶ月、予定を立てようともしてくれなくて、連絡頻度も少なくて、夜9時のLINEも次の日「寝てた」から返ってこなかっただけ。


「なんでそう思ったの」
「最近の小さなことの積み重ねかな」

明るく、いつも通り。全然気にしてないように、笑って言わないと。

「……俺、人に恋愛感情を抱いたことがなくて」
「お前なら好きになれるかもって思ったけど、やっぱり無理だった」
「同じ好きを返せないのが、辛い」

仕方ない。だって初めから、恋愛的に好かれていなかった。会いたいって言ってくれないのも、好きって言ってくれないのも、仕方ない。
あの時の思い出も、嫉妬も、かわいいって言葉も、優しい顔も、全部全部全部、私の事好きだからした訳じゃなかったんだ。なら、仕方ない。

「…そっか」

社会の定義する恋愛感情じゃなくても、同じ「好き」じゃなくても、私たちは確かにこの9ヶ月、お互いを好いていたはずなのに。
私の9ヶ月は、無になっちゃったよ。

君の言う「可愛い」って、何?
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