彼はきっと、ずっと私を大事にしてくれる。
私の両親は、仲が悪かった。

怒鳴り合い、掴み合い、「しつけ」と称して振り上げられる手や、真冬の夜に響くパトカーのサイレンを私は今でも鮮明に思い出すことができる。
高圧的で頑固な父親と、被害妄想激しいヒステリックな母親。
そんな家から早く出たい一心で、私は遠い大学に進学した。


彼とはアルバイト先で出会った。

彼は頭も良くなかったし、背も高くはなかったけれど、私が今までに出会ったどの男性よりも優しかった。
荷物を持ってくれたり、エスカレーターで先に乗せてくれたり、店員さんに必ずお礼を言ったり、一つ一つの行動が優しい人だった。

お付き合いを始めてからというもの、彼は「かわいい」「好きだよ」と、毎日何度も伝えてくれた。
何の不安も感じない、穏やかな幸せ。
彼の隣はぬるま湯みたいだった。

だから私は経験がなかったけど、彼とならしてみたいと思った。

実際、彼の唇も指も、彼そのものみたいに優しかった。
それでも私がひどく怖がるし痛がるから何度も何度も途中で止めて、ようやく最後までできた日は、気持ちよさも何もなくてただただ痛かった。
その痛みすら、幸せだった。

彼は「頑張ったね、ありがとう」と泣いた。

初めての相手が彼でよかったと思った。


それは裸のまま2人並んで、他愛もない話をしていた時だった。

不意に彼が、
「結婚したいなぁ」
と静かに呟いたのだ。

その瞬間、私は自分の中の熱が急激に冷めていくのを感じた。

「結婚」

結婚。

もう二十歳を超えた私たちにとって、それは別に全然、現実的で自然な話のはずだった。


彼の家では、毎年家族でクリスマスプレゼントの交換をする。
彼は二十歳の誕生日、ご両親に感謝の手紙と花束を贈っていた。

あぁ、そうか。

貴方は愛情に溢れた、あたたかい家で育ってきたんだね。
だから、これでもかと言うほど愛情表現が豊かで、優しくて、
「ありがとう」と言って綺麗な涙を流せるんだね。

だからそんな幸せそうな顔で、「結婚」なんて言葉を口に出せるんだね。


私はへらりと笑って、彼の胸に顔を寄せた。

「ずっと守るからね」と優しく頭を撫でてくれる彼を、私は肯定も否定もできなかった。


彼はきっと、ずっと私を大事にしてくれる。
彼の腕の中で目を閉じた。


どこかで、誰かの怒鳴り合う声とパトカーのサイレンが聞こえる。
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