結婚なんかしたくないってずっと言ってたのに
「好きだけど、誰とも付き合う気はないんだよね」

真夜中の3時、彼がこういった。やっぱりか、でも、最初から知ってたし、全然傷ついてなんかない。とわたしは布団に突っ伏した。こういった経験なら何度もある。

彼と出会ったのは大学時代のバイト先。中高大と女子校続きの私にはあまりにもキラキラして眩しい男の子だった。人との距離感を取るのがうまいなあというのが最初の印象だ。背が高くてたまにボディタッチしてくる彼に私が恋をするまで、そう時間はかからなかった。

「付き合うっていうのは、相手を所有する行為だから。付き合ったら急に「ふたりでひとつ」みたいになって。お互いがお互いの所有物になる、そういうのは違うって思うんだ。」

確かに、そういう恋愛もあるかもしれない。でもわたしの考える「付き合う」は、人と人として相手に「向き合う」ってことなんだよね。あなたは過去の経験から、付き合ったらお互いを独占しあってしまうと思っているのかもしれないけれど。

強がって言ってみせた。自分は嫉妬なんて醜い感情、持ったことないみたいな顔をして。

「じゃあ、その定義で、付き合おう。でも俺は彼氏じゃないからね。」

他の誰かと関わったり、何かに集中したり、いろんなライフイベントがある中で、関わらない期間があったり、関わったり、そういう関係があってもいいじゃない。それは、わたしにも理解できる考え方だったし、魅力的に思えた。

きっと、この関係性を表す言葉はないのだろう。

私たちは月に1,2回くらいは会って、セックスして、恋人みたいにデートして、そうして月日が流れ2年がたった。彼は常に優しかった。身体の相性も良くて、一緒にいるときは笑いが耐えなかった。その間も彼は違う女の子と遊んでいたけれど、私は気にしないようにしていた。私たちの絆はもっと深いものだと信じていた。

お互いを干渉し合わない関係のゴールには結婚がない。子供が欲しかった私は、彼とゆるい関係を続けながらも違う人と結婚することに決めた。誠実で、穏やかで、一途に愛してくれる夫には最適な人だ。

彼のことは好きだけど、所有される行為が嫌いな彼にそれを求めることはできなかった。彼に結婚することを報告した。彼はうつむきながら言った。

「じゃあもう会わない方がいいね」

「うん、今までありがとう」

彼は私をちっとも引きとめなかった。そこまで好きじゃなかったのだと思った 。そこから彼とは連絡を取らなくなった。私は小さな結婚式をあげて、夫と暮らし始めた。結婚式や引っ越しは、彼のことなんか忘れるくらいに忙しくて、新しいスタートにあたふたしていた。

たまに更新される彼のSNSには、見て見ぬ振りをした。この人と交わることは私の人生にはもう一度もないのだと言い聞かせた。

引っ越して1ヶ月たった頃、LINEがきた。彼だった。

「俺が結婚したかった。もう遅いかな。」

結婚なんかしたくないってずっと言ってたのに、どうして、いま?あのとき言ってくれれば違ったかもしれないのに。私は泣き崩れた。私は彼のことをとてつもなく愛してしまっていたらしい。

返事はしなかった。今でもあの頃違う選択をしていたらと思う時がある。
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