「前好きだった子のことまた好きになっちゃった」
本当は私では無い他の誰かの事がずっと好きだったと知ってしまった日、私は過呼吸になり救急車で病院に搬送された。

救急車に運ばれるのなんて生まれて初めてのことだ。必死に息を吸って、必死に息を吐く。それらを繰り返していくうちに手が冷たくなって、どんどん意識が朦朧としていく。

街ゆく人が心配して私に声を掛けてくれる。ここはこんなに優しい世界だったっけ。

ううん、全然優しくなんかない。世界で1番大好きだった彼は私の事を1番にしてくれなかったのだ。たったそれだけでこの世界は残酷だと思った。


病院に着き、「涙が止まらない」「助けて」と必死に訴える私を医者は冷めた目で見ながら慣れた手つきで投薬の準備をしている。そして精神安定剤を打たれ、私はいつの間にか冷静さを取り戻していた。冷静になっても、心の中は果てしない虚無で溢れていた。

数時間後、タクシーで家に帰った。眠れない。心も身体もどっと疲れているのに全く眠気が来ない。暗闇の中、頭の中を無理矢理真っ白にさせていた。

着信音が鳴り響く。ずっと連絡の取れなかった彼から久しぶりに電話が掛かってきた。


「今までずっと寂しかった」
「ごめん」
「私ね、さっき救急車で運ばれたの。過呼吸になってさ」
「それって俺のせい?」
「違うけどさ…」

そうだよ、俺のせいで合ってるよ。まあそんなこと言えたらこんな苦しんでないか。


「ごめん、冷めちゃった」
「前好きだった子のことまた好きになっちゃった」


唐突だった。
いや、本当は気づいていた。徐々に冷たくなる彼の態度や来なくなる連絡。気づかないフリをしたかった。
でも、まさか今日振られるなんて。

彼は前好きだった子のことがずっと忘れられなかったみたいだ。ずっと、ずっと嘘をつかれていたんだ。

そう思うと悔しくなって

「そっか、でも私も忘れられない人いたし」

そうやって嘘をついて強がって誤魔化すしかなった。じゃないとあまりにも自分が惨めに感じてしまうから。

「そうなんだ、なんとなくそんな気はしてたけど」

あまり驚いていないようだった。少しくらい嫉妬してくれるんじゃないかと期待していたのに。そもそもまっさらな嘘なのに。

そのあとは特に言い合いをすることも無く思い出を振り返った。何がいけなかったのかも話し合った。もう全部終わってしまっているのに。
合鍵を返す為に会う約束もして、最後は「ありがとう、楽しかったよ」と言い合って電話を切った。


後日、彼は合鍵を返しに私の家へ来た。
すぐ帰ろうとした彼を引き止め、3時間もの間私が一方的に話して泣きじゃくった。

不意に彼の手首を掴んだ。
手を繋ぐ関係ではもうないから、せめて手首だけでも優しく握りしめたかったんだ。

すると彼は私の手を振りほどいて私の事を優しく抱きしめた。
温かかった。幸せだった。ずっとこのままでいたかった。

私は止まらなくなって彼を求めた。ゆっくりキスをし、徐々に激しくなっていく。

「これだけでもいいからこれからも会いたい」
「それってセフレってこと?」
「うん」
「そういうのがお前のいけないところだと思う」

わかってる。”そういうところ”のせいで私はまた大切な人を失うんだ。

「しょうがないじゃん。まだ好きなんだもん」
「分かった」

涙ぐむ私に彼は冷静にうなずいて行為が始まった。

愛し合っていなくても、側にいてくれるだけでいい。会うことが出来るのならそれでいい。
もう1番じゃなくてもいいから。そんな高望みしないから。


セフレの関係は2ヶ月ほど続いた。
その間、 酔ってうちに来た彼に「やっぱりお前が好き」と言われて泣かれたことがあった。復縁出来るのではないかと期待してしまう自分がいたけど、彼との関係が元に戻ることはなかった。

最後にちゃんと会ったのはクリスマスだった。イルミネーションを見に行ったし、外で手も繋いだ、し誰も居ないエスカレーターでキスもした。
他の人から見れば私たちは紛れも無く恋人同士だった。その時だけ心の中ではこっそり復縁したつもりでいた。
別れ際、次に会えるのは来年の2月かな、と話していた。


そして2月、彼にいつ空いてるか連絡した。

「ごめん無理かも〜」

その一言で全てを察した。
いつかこうなることは分かりきっていたのに。


次の日、1人でいることに耐え切れず急遽好きなバンドのライブに行った。
あの日、過呼吸になった街の中のライブハウスだった。セットリストは案の定失恋ソングばかりで涙が止まらなかった。


ライブハウスから出て、私は目を疑った。
目の前から彼が歩いてきたのだ。
あまりにも残酷すぎる偶然だった。

彼は友達と飲みに行く約束をこの近辺でしていたらしい。

「あの女の子とは付き合ったの?」

私が聞くと彼は黙って頷いた。

「そうなの!よかったじゃん!」

私がそう言うと彼は気まずそうに、でもちょっぴり嬉しそうに笑っていた。
もう彼の心に私はいなかった。


「お幸せに」

最後に言葉をかけた時、不意に思い出した。

いつだっけな。彼とセフレだった頃「お前にとっての幸せって何?」って聞かれた時のこと。
あの頃は答えられなかったけど今なら答えられるよ。

"当たり前がずっと無くならないこと"

彼と過ごす日々が当たり前になってしまったからこんなにも離れるのが辛かったんだ。
でも気づくのが遅かった。自分にとっての幸せの意味が分かった頃には彼は他の女の恋人になっていた。

彼と離れてしばらく経った今でも考える。
あぁ、またあの時の当たり前が日常になってくれたら幸せになれるのになぁ、と。
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