わたしを好きだという気持ちは、射精とともに流れ出る。
「今日空いてる?」

冬になると、寒さと乾燥からか耳の淵が熱を帯びて痒くなり、我慢のきかないわたしは掻きむしっていつもかさぶたを作ってしまう。つくづく、意思が弱くて嫌になる。

仕事中も、ことあるごとに触ってしまい、ますます赤くなり、ひりひりと痛む。

思い通りにならず苛立つのに、なぜか自分の意識と関係なく取り合ってしまい、治りを遅くし、痕を残す。
なのに、わたしはやめられない。痛くても、傷が長引いても、熱を帯びて腫れていても、触ることがやめられない。

「会いたい」

あの人から連絡があったのは、午後の16時頃。取引先との打ち合わせで外出していた私が、連絡に気がついた頃にはとっくに17時を回っていた。


「都築さんを失いたくない」

こちらが気恥ずかしくなるくらい、あまい言葉を囁いていたあの人はどこに行ってしまったんだろうと、色合い豊かな電車の路線図を端から端までぼうっと眺めながら考える。

二人でいるとき、たまたま郷友がかけてきた電話一本で「俺のことが一番好き? 俺以外の人のことは好きじゃない?」と嫉妬心を丸出しにしていたあの人は、どこに行ったのか。

言わないといけない。

別れましょう。別れて、わたしはあなたの知らないところで勝手に幸せになりますと、強く突き放して、痛めつけて、わたしの存在の大きさをを知らしめてやらないといけない。

なのに、どうしたことか。わたしは、すぐに連絡を返せなかったことを悔やみ、嬉々として家路に着き、いまは部屋をすっかりきれいに片付けてしまい、耳にクリームを塗っている。彼は、必ず最初、耳に舌を這わせてくるからだ。

夜も更けたころ、会食を楽しんだ紅潮した顔が現れた。愛しい顔は性急にわたしに口付けをして、えらく満足そうだ。お酒のあまい匂いに支配されてしまったのか、わたしは帰路で思いついた、たくさんの別れのフレーズを脳内で反芻させながら、もうどうでもよくなっていた。

今日、あの人がキスをしたとき、とてもいい匂いだったから。
わたしの言い訳はそれだけで十分だった。

どさりとベッドに降ろされ、ぎゅっと抱きすくめられる。匂いの濃さを楽しんでいると、耳に吐息がかかりすっと恐ろしくなった。かさぶたになり、でこぼことした皮膚に触れれたくなくて、思わず胸板を押し返すけれど、びくともしない。こんなに痩せているのに、一体どこにこんな力があるんだろう。

なにも気にしていないのか、丹念に耳を舐められたかと思うと、強い力で首筋を噛まれる。すごく痛いのに、わたしからは嬌声があがる。

痛いことが気持ちいいんじゃない。
あなたが容赦なく噛みつける存在が、わたしであることがとてつもなく気持ちがいい。

「好き、好き?」

うわ言みたいに、同じ言葉ばかりを繰り返している。
わたしは、唾液で濡れそぼった耳が気持ち悪くて、必死なフリして枕で拭った。

好きって、週に一度、あなたが暇なときに連絡をよこしてきて、セックスをすることなのだろうか。

あの性急さが嘘みたいに、情事のあとはいつも早く帰りたそうにしている。
わたしを好きだという気持ちは、射精とともに流れ出て、また時間が経てば少しずつ溜って、の繰り返しなのだろう。

去っていく後ろ姿を見つめながら、痛みすぎて摩耗した心が底冷えしていくのを感じる。


あの人は、わたしがいてもいなくても、ずっとへっちゃらそうだった。
わたしはそれがたまらなく嫌だった。

だから、わたしにしかないものがずっと欲しかったけれど、そうやって重ねた時間のせいで、関係性は歪みに歪んでしまったと、いまでは思う。
たまらなく消耗してしまったいま、とにかくただ、忘れられないための傷をどうすればつけてやれるのかという思考ばかりがめぐっている。

でもきっとそんな傷をあの人につけたところで、かさぶたみたいにはげてしまって、痕も残さずつるりと剥げてなくなってしまうんだろう。

翌日、赤くなっていた首元は痕一つ残さず、まるで何もなかったかのように白い素肌に戻っていたけれど、耳の淵は、いつものように乾燥して皮膚が毛羽立っていた。
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