「ええねん、今夜あたしを1人にしたあいつが悪いねん」
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
「ええねん、今夜あたしを1人にしたあいつが悪いねん」

聞いているこっちが苦しくなるような言い訳をつぶやいて、彼女は少しだけ泣いた。

やわらかく沈むベッドの上で、僕の胸に頭を乗せてくる。
そして僕の心臓が期待したほどドキドキと拍を打っていないことについて、愛嬌たっぷりに不満を漏らし、笑った。

お互いの寂しさを貪り合うような交わりの後、僕がバスルームに行くため照明を上げようとすると
「消したままにしといて、そんでシャワーは朝でええやん」
と言って僕を引き止めた。

体のいたる所に、どちらのものとも分からない体液や汗が着いているようで、
正直洗い流したかったが我慢することにした。

ベッドの彼女側の脇にあるサイドテーブルには、彼女の化粧品や外したピアス、小さなポーチなんかが雑に置かれている。

僕の部屋はどちらかと言えば物が多い。
決してちらかっているわけではないのだが、使わなくなった物を捨てるまでに、人よりも少しだけ時間がかかるのだ。

そんなことを話すと彼女は、
「だから落ち着くんかなぁ、私の頭の中に似てる」と言い、何かを付け加えようと3秒程口をぱくぱくさせた後やっぱり諦めて、取り繕うようにまた僕の腕の中に潜ってきた。

「あいつがな、もっと自分を磨ける仕事探せって言ってくんねん。あっちはイケイケのコンサルタントやから、そりゃ自分を高めることに夢中やろうけど私はそんなことより褒めてほしいだけやねん。話を聞いてほしいだけやねん。自分の考えがな、あいつより何段階も下で滞ってるような気がして、なんていうか、もう嫌やねん、死にたくなんねん、そういうことってあるやろ?」

そうだね、と彼女の頭を撫でようとして寸前で止めた。僕はいつも気の利いた事が言えないし、できない。

人の気持ちをだらだらと聞くのが好きだが、だからといって特別に優しいわけではないのだと思う。単に無害な男だから、人は僕にとりとめのない気持ちを話したがるのだろう。

そんな風にして聞いた話は僕の脳みその底の方に、溶けきらなかった砂糖のように溜まっている。時々不意を着くように口元まで言葉になって溶け出てくることもあるが、それらは大抵、甘いだけで何の役に立たない。

そんな文字通りの甘言など、全く実用的ではないのだ。

「聞いてへんやん、そしてなんも喋らんやん」

笑いながら僕の腕を優しくつねる。
全く痛くない。なぜだかその瞬間、胸がちぎれそうなほど彼女が愛しく感じた。

水面から水が零れるみたいに、大丈夫だよ、という言葉が口を衝いて出る。
彼女はちょっとびっくりしたような顔をした後、大きな目を細めるようにして微笑んだ。

なんだか優男ぶってるみたいに感じて、気恥しさを隠すためにキスをすると、彼女の方から深く舌を入れてきた。僕の奥歯を舐めるみたいな動きに合わせて、僕もねっとりと舌を絡ませる。

「ねぇもう1回だけしよ、もう1回だけでええから、そしたらほんまにあたし大丈夫になると思うわ」

僕らはさっきよりゆっくり、今度は優しく抱き合うようなセックスをした。

それは何だか幼い子ども同士が、押し入れの中に隠れてクスクスと笑い合うみたいな、お腹の底がじんわり暖かくなるような交わりだった。

朝起きたら彼女はもういなくて、それきり会うこともなかった。
不思議とまた会いたいとも思わなかった。

でもあの夜のやり取りをもう1回、あの時の君とやってみたいなと思ったりする。

そういう時は、君が忘れていったピアスをサイドテーブルの上に置いて、ベッドに寝転んだまま眺めたりしてみる。

愛しさで満ちた胸から、気持ちが溢れ出たような感覚を、思い出そうとしては失敗する。覚えてるのは、暖かく濡れた唇に舌を這わせたあの感覚だけ。

あの後君は、彼と上手くいったのかなぁ。
大丈夫になったのかなぁ。

当然、ピアスが教えてくれるはずはない。
彼女を思い出すことが減っていくに連れて、それはただのピアスになって部屋に馴染んでいった。

こうやって僕の住む1DKはまた、少しだけ物が多い部屋になった。
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